空蝉(うつせみ)の時の流れでございます。
私が御一新後の借財(しゃくざい)、山のように積もりたる吾(わ)が家(や)から、
銀一升とひきかえに、西洋館(せいようやかた)へ奉公に上ることになりました朝……、
あの方は自害の末、黄泉(よみ)の国へ行かれましてございます。
父上の背はますますやせてとがり、母上の目は泣きはらしてふさがってございます。
空蝉の時の流れのまにまに、私は漂(ただよ)って参(まい)ります。
父上、母上、弟よ、妹よ……、これにて、貧(ひん)と飢(う)えには別れて下さいませ。
春の花に 死んだ魂は似合わない
春の花に 売られた心はそぐわない
女ひとりがすねてみたって
時代がよくなる訳ではないから
何んにも語らず
迎えの馬車にのるがいい
らしゃめん馬車は 花模様
あ、あ、……花模様
馬車にひとり 滅(ほろ)びの旅への急ぎ足
春の日射し この世の見收(みおさ)めひな祭り
さだめ恨んで泣くのもいいが
泪はとっくにからから乾いて
私は行きます
花嫁衣裳で参ります
らしゃめん馬車は 花曇り
あ、あ、……花曇り