鴎外さんと違って、俺には文才なんてない。
それでもこの胸の奥に支えたままの思いを、
言葉という手段で、俯瞰してみたくなった。
きっと君は、大袈裟だと笑うだろうけど、
俺にとっては、小さくない挑戦で、
絵を描くことよりも難しいのは、間違いない。
でも、存外うまく書くことができたら、
いつか君に、この文章を見せてもいいと思う。
今日は、生憎の御空模様だ。
窓の外、遠い夜空に淡墨を滲ませたような雲が見える。
この町が雨に包まれるのは、時間の問題だろう。
髪が湿気るから雨は困るけど、
運が良ければ、虹が出る。
だから、そう嫌いにもなれないんだ。
虹を見ていると、何だか、君に似ているような気がしてくる。
七色に変化する表情とか、
気だるい空気を吹っ飛ばしてくれるところとか…
あと、折角この腕で抱きしめたのに、
いつの間にか、どこか違う場所へ行ってしまうところとか。
こんなことを言っても、君はどうせ、首を傾げるだけだろうな。
君は、いつまで俺の心をかき乱すつもりなんだろう。
俺だけが必死に手を伸ばしているみたいで、
たまに、もどかしくなる。
もしかしたら、君は虹なんかよりも、もっと不確かな存在なんじゃないかって、
疑いたくなる時があるんだ。
こうやって改めて文字にすると、
自分でも、おかしなことを考えてるって思うけど…
それでも時々、自分の感情を見失ってしまうのは確かで。
愛しさ、寂しさ、嬉しさ、切なさ...
沢山の感情が混ざり合って、胸がいっぱいになって、
息すらも、忘れそうになる。
想像もつかなかっただろう、俺の胸の中が、こんな風になっているなんて。
君に全てを悟られるのは悔しいけど、
たまに、気づかせてみたくもなる。
矛盾しているようだけど、どちらも、俺の本心には、変わりないから。
だから俺は絵筆を取るんだ。
どんなにちぐはぐな感情でも、
真っ白な紙の上ではたちまち、
華やいだ色となって浮き出てくる。
やり場のない思いが絵筆を走らせ、もがく程に、
塗り重ねた面が、豊かな表情を帯びていく。
今描いた絵が完成したら、誰よりも先に君に見せたい。
俺を取り巻く世界はこんな色をしているんだって。
ねえ、次は君が見ている色を教えて?
君にとってのこの世界は、どんな風に見えてるの?
自分が誰なのか、どこから来たのか、
それすらも不透明なその目には、一体何が映ってる?
全てが朧げで、
まるで靄に包まれたような、線の滲んだ景色が、
ただ、漠然と広がっているのかな。
その中で俺の姿だけは、くっきりと映っていればいいのに...
なんて思うのは、わがままなことかもしれないけど。
今描いている絵の輪郭も、
指で擦れば、君が見ている景色と重なって、
この思いをもう少しだけ、うまく伝えることが出来るかもしれない。
他の誰もが理解してくれなくたっていい、
君が喜んでくれるなら、俺は、何枚だって絵を描き続ける。
だからずっと、俺の隣で 笑っていなよ。
もしも君の心に、ぽっかりとした暗闇にも似た大きな穴が開いているのなら、
時間を掛けてでも、俺が少しずつ埋めてあげる。
そしていつか、俺でいっぱいになった君をこの腕に閉じ込めたら
二度と離さないって、誓うよ。
このガラス窓を雨が濡らして、ぼんやりとした景色に飲み込まれそうになる時も、
君の顔が不安で濁る前に、抱きしめに行く。
君を、愛しているから。
嗚呼、やっぱり、俺には決まりの悪い文章しか書けないみたいだ。
この文章は、君の目には届かない場所にしまっておくことにする。
十年、二十年と経った時に、自分で読み返してみるのもいいかもしれない。
いつか、こんな文章を書いた自分を「馬鹿みたいだ」って、笑い飛ばせるように。
その時、君が隣にいてくれることを、信じて…
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☆日語原文by網易雲評論區-Habou☆
★時間軸by歌詞上傳者↓★
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