第十五課 友好のために
本文
日本語ガイドが語る
去年は中国の友好観光年であった。
海外からの観光客は延べ870万人に達し、過去最高をマークした。
その中では、日本人観光客が一番多かった。
外国の観光客にとって、中国は大変魅力のある観光地である。
960万平方キロという広大な土地に、素晴らしい風景や文化遺跡がたくさんある。
さらに改革・開放以来の新しい変化も見事なものである。
中国では、観光資源が豊かであるばかりでなく、観光環境もたえず改善されつつある。
友好観光年のために豊富多彩な観光プログラムが用意された。
例えば、観光客にニーズに応じて設けられた、テーマ別の観光コースや民族色豊かなフェスティバルなどが特に注目されている。
友好観光年というネーミングでも分かるように、この大規模な観光活動の目的は何より中国と外国との友情を深めることである。
古い友人の友情をさらに深め、より多くの新しい友人を作りたいと、みんなは心から望んでいる。
会話 (座談会)
司会 去年は友好観光年で、新年の鐘が鳴ると、さっそく観光客の第一陣が降り立ちましたね。
王 そうですね。我々の仕事は忙しいほど張り合いがあります。お客さんが大勢来てくれるわけですから。
司会 ガイドは民間大使だといわれます。
皆さんは中国と日本との民間交流に貢献なさってるわけですね。
きょうは民間交流の経験を大いに語っていただきたいと思います。
張 いつもは通訳ばかりやってましてね。
記者から取材されるなんてことはめったにないから、もちろんしゃべらせてもらいますよ。
司会 では、初めにガイドという仕事についてちょっと。
李 僕はこの仕事が気に入ってるんです。
司会 皆さんが今の仕事に就いた動機は?
馬 僕はずっと前に大学を卒業して旅行社の日本語ガイドに就職配分されたのです。
自分から選んだわけじゃなかったんですけど、だんだん好きになってね、今ではすっかり気に入ってるんですよ。
唐 僕はちょっと違います。中国と日本は文化も歴史も深い関係があるから、
中日両国の友好を深める仕事をやろうと、日本語学校を卒業したらすぐ杭州旅行社に努めたんです。
司会 平和と友好のかけ橋役として、皆さんはどうやっていいサービスを提供しているか、苦心談をざっくばらんに一つ。
王 劉さんは名ガイドの一人ですよ。まず劉さんから、どう?
劉 いやいや、どういたしまして。仕事柄でしてね。ガイドである以上、表現技術を磨くのは当たり前と思ってるだけです。
例えば、同僚の曲さんは「私は曲と申します。苗字は曲ですが、人間は曲がってません。
まっすぐです。」とやります。お客さんはいっぺんに気持ちなごんで、たちまち親近感を持ってくれます。
司会 皆さんは言葉の面でいる色経験があるそうですね。
呉 ガイドは言葉の商売ですから、それがしっかりしてないと、いいサービスはできっこない。
仕事は始めた当初はエビ料理や蛇料理と言い間違えたりして興ざめさせたし、長城では、
右側は老人コース、左側は若者コースです」と注意するんですが、お年寄りたちが苦笑いしてるのに気が付いてね、
「熟年コース」と改めたら、お客さんがニッコリしてくれました。ちょっとした言葉の問題ですね。
周 中国も日本も漢字を使いますが、使い方はずいぶん違ってるから、気を付けないと笑い話になってしまいますね。
例えば、中国では「賢妻良母」、「日本では「良妻賢母」でしょう。
司会 皆さんは友好の種をまく、平和の花を咲かせる、いわば畑を耕す人ですね。
友好に尽力なさっていれば、お客さんからお返しをいただくこともおありでしょう。
王 僕は日本訪問に行った時、以前接待した友人が、電話をくれたり、会いに来てくれましたよ。
おばあちゃんが遠くからわざわざ訪ねてきて案内してくれたりね。
帰国する日には、皆さん集まって、涙ながらに別れを惜しんでくれて、……。
陳 僕は日本へ行った時、友好協会の会長さんなどが来てくださったし、以前接待した子供たちまでが歓迎に集まってくれました。
みんな大きくなっちゃってね。
帰国してから、子供たち全員の名前でプレゼントが届いたんです。
テープ一本。日本で流行ってる歌だろうと思って。
聞いてみたら一言ずつ子供たちの声が入っていました。
みんな中国と私を懐かしがってて、陳さん元気でいてくださいって言ってるんですよ。
男は泣くもんじゃないが、この時は録音を聞きながら、僕も涙が止まらかったですよ……。
司会 いや、面白いお話をいろいろありがとうございました。
お伺いしてるときりがありませんね。今日はひとまずこの辺で。
応用文
上海を訪れる
……けたたましく鳴らされるクラクションで目が覚めた。
寝ぼけ眼で窓から外を見ると、町はもうすっかり目覚めている。
太極拳や朝市へでも向かうのであろう人々と自転車の洪水、そして人や物で一杯のトラック。
まだ六時前だというのに、町中が人であふれている。
さすが中国第一の商業都市上海だけあって、湧き上がるようなエネルギーとけん騒で、ホテルの窓も揺らぐかと思えるほどだ。
街に出ると、人、自転車、車が一体となって作り出すエネルギーの波に、弾き飛ばされてしまいそうになる。
すれ違い人たちの顔がこんなにも明るく見えるのは、早朝から容赦なく照りつける真夏の太陽のせいなのだろうか。
休む間もなく話し続けるどの顔にも、明るい笑いの絶えることがない。
月の光に誘われて出た夜の街にも、明るい笑顔はあった。
すずかけの木の下に腰を下ろしてビールを飲んでいると、私の周り人が集まってきた。
一見して服装の違う人間を珍しいと思ったのだろうか。
「日本人か」「どこから来たのか」そういう意味なのだろうと見当はつけてみたが答えられない。
そうだ、中国では友好の印にたばこを勧めるのだった。
誰かにそう教えてもらったことを思い出して、胸のポケットから煙草の箱を取り出した。
しばらくして、人が遠慮がちに手を出した。
その手に後が続いて、あっという間に空になってしまった。
「謝謝」の声を聞いて、「中日友好に一役買ってるんだ」とうれしくなった、片言の日本語で、
あるいは上海語で争うように語りかけてくるどの顔にも、笑顔がこぼれている。
なんでこんな明るいのだろう。国を挙げての経済発展、国際化のかけ声の下で頑張ることしか知らない私は、
この明るさは理解し難しいものだ。
……黄浦江から流れ出る水がもう届かなくなったのだろうか、黄色く濁っていた海の色がエメラルド色に変わった。
ジャンクの姿ももう見えなくなった。
それにしても、あの明るさは何なのだろうか。
私はもう一度上海を訪れようと決めた。そしてあの明るさがどこから来るのか、確かめてみたいと思った。
「鑑真号」甲板の上で心地よい風に吹かれながら、私は文字どおり、「上海、再見」を誓った。
単語
ガイド(guide) 延べ 過去 マーク(mark) 観光地 広大 遺跡
豊富多彩 ニーズ(needs) 民族色 フェスティバル(festival) ネーミング(naming)
大規模 望む 座談会 陣 降り立つ 張り合い 大使 貢献 記者 取材
滅多 しゃべる 旅行社 配分 かけ橋 ざっくばらん 仕事柄 いっぺんに
和む 親近感 当初 エビ 興ざめる 長城 苦笑い 熟年 良妻賢母 種
畑 耕す 尽力 惜しむ 友好協会 会長 歓迎 一言 懐かしがる ひとまず
寝ぼけ眼 朝市 町中 沸き上がり エネルギー 喧騒 揺らぐ はじく
飛ばす 弾き飛ばす すれ違う 早朝 容赦 照りつける 絶える すずかけの木
腰を下ろす 一見 服装 見当をつける ポケット(pocket) 空 一役買う
片言 争う 語りかける 零れる 国を挙げて 掛け声 濁る エメラルド(emerald)
ジャンクあ(junk) 鑑真号 甲板 心地よい 誓う